13年程前、京都哲学の道を散策していて疲れた所、目の前に不思議な(不安な?)喫茶店があり、迷った末入ってみる事にした。
土手から階段を下りた所に風見鶏がある洋館風の民家があるが、喫茶「若王子」の看板はあるものの肝心の店が見えないのである。
下りてみると、以前は店だった建物が倉庫になっており不安は増すばかり。その角をまわってみると店はちゃんとあった。
ドアを開ければアンティーク風の小物があちこちにある小奇麗な店内であり、つるっぱげの品のいいおじさんが、慇懃な朗々たる声で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれたのであった。
しかし、はて、どこかで見たような?座って落ち着いて見れば、禿頭にズラを乗せれば土方歳三栗塚旭ではないか!この近くに俳優の栗塚旭の店があると聞いていたがここだったのだ。
まずはコーヒー700円に驚き、出されたおしぼりを乱雑に置いていたら、歳、いや栗塚マスターが「お嬢さん、おしぼりは元に戻しましょうね」と娘に注意を促す。さっとおしぼりをかたずけるくら坊夫妻。
新参の5人組のご婦人連れが4人用のテーブルに着くと、歳さん今度は、5つ目の椅子の置き方に注文をつける。
栗塚氏は余程お説教の好きな人のようである。
くら坊家族は良き旅の思い出として店を出たのであった。