父の句稿の続き。
  梅雨寒や髭面うつる大鏡

*面白い見付ところです。理髪業なればこそ此の様な句が得られたのでせう

   土岐川車窓より
  足浸し釣り竿鳴らす夏の川

   陣中報告ラヂオ放送を聞きて
  いくさばに心はせらす夜長哉
  母の縫ふ針に糸さす夜長の子
  小春日や力士の背に砂光る
  投げ入しポストの音の寒さかな
   征きし兄の便り
  火を囲む老いたる親に聴かす文
  針運ぶ白髪の母や冬日
   遺骨迎へて
  戦友のいだく遺骨や寒の月
  客とぎれはぜる炭火の寒さかな
  犬いだき憩ふ兵士や枯木立
  竹馬の影かけて行く長き塀
  初雪をうちはで払ふ屋台店
  寒風や万歳後に征く列車
  影膳の小さき椀になづな浮く