河原地副主宰選5句
口嗽ぐ杓に杉の香涼新た 俊雄
街角にハブの標本秋黴雨 佳子
衣白き即身仏や秋の雨 徒歩
秋晴れや騎馬戦の足つんのめる ゆうこ
特 名水を飲む花萩に顔触れて 英子
幻住庵は、芭蕉の「石山の奥、岩間のうしろにやまあり、国府山といふ。」で始まる『幻住庵記』が有名ですが、『幻住庵ノ賦』という書もあります。
「五十年やゝちかき身は、苦桃の老木と衣りて、蝸牛のからをうしなひ、蓑虫のみのをはなれて、行衛なき風雲にさまよふ」と始まるのですが、
『幻住庵記』
比叡の山、比良の高根より、辛崎の松は霞こめて、城あり、橋あり、釣たるる船あり、笠取に通ふ木樵の声、ふもとの小田に早苗とる歌、蛍飛びかふ夕闇の空に水鶏のたたく音、美景物として足らずといふことなし。中にも三上山は士峰の俤に通ひて、武蔵野の古き住みかも思ひ出でられ、田上山に古人をかぞふ。
『幻住庵ノ賦』
日枝の山ひらの高ねより辛崎の松は霞こめて、膳所の城は木ノ間にか心やき、勢田のばしに雨騎ては、粟津の松ばらに夕日を残す。三上山はふじの悌にかよひて、むさし野の古きすみかも思ひ出られ、田上山には古人をしのふ。
と、微妙な違いはあるものの内容は殆ど同じのようです。
幻住庵吟行
玉踏んで阿形狛犬そぞろ寒 哲半
地に還るものに最も露深し 俊雄
蕉翁の句碑病葉の二三枚 悦枝
切り株の苔に黄葉や庵跡 万里子
昼ちちろ屈みてくぐる庵門 ゆうこ
茸生ふる幻住庵のいほり門 秋麦
葭葺の苔あをあをと露雫 佳子
鹿威し間遠に鳴れり国分山 徒歩
音かすか幻住庵のばつたんこ 惠光
翁ゐし縁より望む近江富士 英子
切株の苔さみどりや素十の忌 英武