前略御免下さい先生には御忙しきところ御面倒ですがおひまなところにて見て下さいますようお願い申上げます兄の句も同封致しました故良ろしくお願い申上げます

で始まる父の若きころの俳句の原稿用紙。

  パラソルの明るき色や更衣

*色は蛇足と添削

  岩の陰咲く花白き更衣

*岩陰に咲く花白し更衣と添削

と興味深い。

  五月雨や晴れの軍服入営日

「今は亡き兄に供ふるちまき哉」という戦死した長兄の句が後にでてくることもあり、<晴れ>と言いながらも五月雨に若干の屈託が出ているか。
尤も、<今は亡き>の句は同封した次兄作の句の可能性もある。

  今は亡き戦友の手向けに花菖蒲

戦友:<トモ>とルビ
この句は現役の兵隊だから父の次兄のものか。

別の原稿には

<戦地の兄を憶ひて>と前書きの
  なつかしき兄の火鉢のぬくみかな

こんな句も

  影膳の兄へ雑煮を供へけり

兄への心情は伝わってくるが、兄への影膳が雑煮の訳だから言葉の運びに無理があるか。