京都の哲半さんから細見綾子の句集「虹立つ」から好きな句を選句すべしという宿題を頂いていたのでここに記す。
餅花を挿してより夜の濃くなれり
武蔵野の梅畑ひろき農家かな
月桃餅と一握の砂旅みやげ
沖縄へ三日の旅の春日焼
くわりんの実青く若くて雨はじく
黒揚羽水辺の石で息したり
名月を三日のあとのぬかご飯
満ち汐の揺らぐ日紋が鹿の目に
年新た伊良湖の貝を耳に振り
一枚になりきつてゐし梅の空
行く春の千体仏の燭ゆれて
初燕堅田の水にすれすれに
冬に入る二枚半なる追悼文
とこしへのほゝゑみに今銀杏散る
春雪の富士遠からず近からず
泉あり少年鮒を釣りゐたり
くわゐ掘家族総出の泥まみれ
長病みの眉根をそりて蕗のたう
かたかごはまだ一枚の葉の姿
下駄箱に桐の下駄ある薄暑かな
特に、
長病みの眉根をそりて蕗のたう
身体はすぐれないとはいえ今年も春が来た。
濃い眉を整える習慣があったのであろうか、それとも気分転換に眉を少し細くしようと思ったのか。
いずれにしても春が剃刀を持たせたのである。
「虹立つ」全句をワードに纏めてくれた哲半さんに感謝。