吟行句

  近江雛湖の青きを衣に染め   英子

  豪商の町に掘割藻草生ふ    惠光

  掘割に川戸に浮けり雛の舟   万里子

  うす笑みの女雛扇を半ば閉ぢ  哲半

  竹筒に豆雛ゐます床飾り    秋麦
  吊し雛商人座敷の太き梁    ゆうこ
  人形のうしろ姿や春の闇    徒歩

  雛たちも庭に繰り出す日和かな 悦枝
京都句会 河原地主宰選
5句に絞るのに苦労しましたが、私の好みで次のように選びました。 
 復興の海苔粗朶まはる連絡船
活気が戻ってきた感じが伝わって、読んでいる私の気持ちも明るくなりました。

 春あられ弾みひと日のめをと旅 俊雄
この「弾み」は心の弾みでもあるのでしょうが、それを春あられのことに転じたのがうまい。平仮名の多用も句に明るさをもたらしていますね。

 観音の菱形の臍のどけしや   万里子
目の付け所がニユーク。作者の快活な気持も伝わって  きました。

 冷えびえと開きたる梅兜太逝く 俊雄
ちゃんとこのように追悼句を作られるのは立派。「冷えびえと」梅が開くという捉え方に哀悼の気持ちを汲み取りました。

 特選
 春泥にホースのたうつ農学部  徒歩
まず情景があざやかに見えてきました。「のたうつ」の躍動感に若々しさを感じます。それがいかにも農学部にふさわしいように思いました。

その他、好きな句を挙げます。
 祖母の盛る赤きでんぶよ雛の鮨 秋麦
 西郷の筆あとやさし梅匂ふ   万里子
 平らかな初島浮かべ春の海   秋麦
 晒したる竹の白肌光悦忌    佳子
 水甕の眼に睨まるる余寒かな  佳子
 土雛箱階段に行儀よく     英子
 真夜中の靴音響く冬病棟    英子
 遠足の声に麒麟が首のばす   惠光