父の長兄の演習の句は以前にも一部紹介したことがあるが、今回は全文。

七月二十三日在郷軍人千種連合分舎耐熱行軍演習  

   集合

  はひ出でし南瓜のつるや明初める
  樹々の風教官来るや夏の朝
  当番の雑嚢配る明易し

   出発

  街道やあらぬ所の青き柿

   実弾射撃

  白々と雲の峰ある的場かな
  砂礫降る観的壕の暑さかな
  交代の兵駆け行くや木下闇
  片蔭に積まれし弾丸や雲の峰
   弾丸:<タマ>とルビ
  谷沿ひに伝令来るや雲の峰

   昼休み

  残飯の流れ沈みつ夏の川
  料理屑流れて来るや夏の水
  用水の水満々とつばくらめ
  青すすき兵住む軒に頭刈る
  糸とんぼ迷ひ込みたる葭簀茶屋

   戦闘行軍

  枝道のつくる所や雲の峰
  日盛りや薊を折つて行く子供
  竹藪に立ちし埃や花あざみ
  水錆の浮きし青田や雲の峰
  水錆の畦溢るるや田草取
  捨苗の道々乾く暑さかな
  炎天や砂上に伏せし兵の列
  標柱や兵皆仰ぐ雲の峰
  尖兵の列びし銃や青すすき
  赤旗の水に沈みぬ田草取
  水鳥のつと飛立ちし青田かな

   小休止

  炎天の虻恐るるや叉銃哨
  日盛りの樹叢に立ちし保哨かな

   帰路

  行軍の列に舞ひ込む蛍かな
  赤青のシグナル磴や夏の月
  山の家の破れ垣根や夏の月
  尾根を越す雲一片や夏の月

   解散

  夏の月東を拝むさわやかに


船橋光秋上等兵
昭和十二年八月支那事変出兵
九月一日上海除宅にて戦死二十三才