七月も終わりである。
自宅裏の暗闇で早くも虫が鳴き始めた。


伊吹嶺八月号

栗田やすし主宰「風鈴」より


  風入れや戦死の父の遺言書


私事で恐縮だが、先の大戦で私の父は無事帰還したが父の兄二人が戦死している。
その長兄が出征直前の訓練の模様を俳句に詠んだ半紙が残っている。
時折その半紙を取り出して読むのであるが、伯父が無事帰還して俳句を作っているところに接していたら、私ももう少し早く俳句を始めたのではないかと思うのである。


河原地英武副主宰「羽蟻の夜」より


  梅雨の蝶北山杉を縫ひゆけり


北山杉といえば時雨を連想するが梅雨の晴れ間である。
背の高く薄暗い杉林の中を優雅に舞う蝶の生命力を見て取ることができるが、「夏の蝶」ではなく「梅雨の蝶」である。
作者も意識していない微妙な屈折感がここに投影されているということも有り得るのではないか。


私の三句


  路地裏に煮炊きの匂ひ荷風の忌  徒歩
  修司忌や馬糞の臭ふ競馬場
  西行の憩ひし橋や花は葉に