河原地主宰選

京都通常句会 河原地英武主宰選
  更科の風に冷えゆく塞の神 徒歩
   (地名がよく効いています。芭蕉の更科紀行まで思い浮かべました。)
  寒々と夜間ポストへ返却本 哲半
   (句材が新しい。現代的な感覚の句ですね。)
  身に沁むや母の短き葬の列 英子
   (「母の短き葬の列」にインパクトがありました。)
  綿虫の消えて日暮の俄なる 俊雄
   (作者の独特な感性に惹かれました。)
  黄昏の遠き冬田に鳥の翳  忽布
   (遠近法的でありながら、「鳥の翳」が近く感じられ、不思議な句です。)
  高千穂の嶺を畏み大根干す 俊雄
   (「畏み」の敬虔な心が、素朴な句に奥行きを与えています。)
  捨て舟に葱を植ゑたる日向かな 佳子
   (発見の句ですね。荒涼とした景のなかに人の温もりを感じました。)
  キャラメルは角より溶けて小六月 万里子
   (角から溶けるのは当然かもしれませんが、小六月の気分をよく伝えてい

    ます。)   
  彫金の鏨打つ音や雨寒し  忽布
   (上五中七の調子に比べ季語が弱い気がしますが、感覚的な句で結構です。)
【特選】
  冬日向木端飛ばして櫂削る 佳子
   (「櫂削る」で決まりましたね。冬日向の明るさと凛とした風情が魅力です。)